第98回日本脳神経外科学会中部支部学術集会 

第34回中部神経内視鏡手術研究会

  • 2020年9月19日 17時よりWeb開催(参加には中部地方会の参加登録が必要です)。

プログラム   一般演題  座長 愛知医科大学 渡邉督

  • 17:00 1.名古屋大学 水野晃弘先生
    TSSにおけるDuragen使用の工夫

  • 17:10 2.岡崎市民病院 佐藤祐介先生
    wet-field下に造影病変の摘出とstent留置を施行した孤発性subependymal giant cell astrocytomaの一例

  • 17:20 3.福井大学 山内貴寛先生
    鍵穴開頭顕微鏡手術支援下に行った頭蓋咽頭腫に対する拡大内視鏡手術

  • 17:30 4.名古屋第二赤十字病院 岸田悠吾先生
    経鼻手術におけるDuragen使用経験

  • 17:40 5.名古屋市立大学 谷川元紀先生
    Combined endoscopic suprarobital keyhole and extended endonasal approachで摘出術を施行した再発clival chordomaの一例

  • 17:50 緊急帰国!特別症例報告 (20分)
    藤田医科大学ばんたね病院 小松文成先生
    Endoscopic microvascular decompressionを施行した舌咽神経痛の一例
    嚢胞性病変に対するEndoscopic cyst-ventricle fenestrationにおける工夫

  • 18:10 特別講演 (30分)   座長 愛知医科大学 渡邉督
    市立御前崎総合病院 脊椎センター 北浜 義博先生
    「脊椎内視鏡手術の未来構想」

  • 18:50 閉会

抄録集

1. TSSにおけるDuragen使用の工夫

 名古屋大学脳神経外科 水野晃弘 永田雄一 竹内和人

人工硬膜Duragenはウシアキレス腱由来の多孔性コラーゲンマトリックスであり、開頭術後の硬膜再建に対して良好な成績を示しているが、TSSにおける有効性と安全性は未だ十分に確認されるに至っていない。
我々は、TSSにおいてDuragenを積極的に使用して欠損したくも膜や硬膜、海綿静脈洞内側壁の再建を行っている。 特に海綿静脈洞内側壁の開放後の再建においては、トロンビン液を含ませて開放部へ密着させることで速やかに止血を得て、本来硬膜由来の組織である内側壁を再建することができ、有効な手法であると考えている。 代表症例を提示し、TSSにおける我々のDuragen使用方法について提示する。

2. Wet-field下に造影病変の摘出とstent留置を施行した孤発性subependymal giant cell astrocytomaの一例

 岡崎市民病院脳神経外科 佐藤祐介

【はじめに】subependymal giant cell astrocytoma(以下SEGA)は結節性硬化症の患者に合併する中枢性神経病変として知られるが、稀に孤発性の症例がある。病変は側脳室上衣下層から発生する良性腫瘍である。 出生時から発生していることがあり、緩徐に増大することにより小児期から思春期に発症することが多く、多くの症状はモンロー孔の閉塞による水頭症が寄与することが多いと言われる。 今回、成人期に頭痛で発症したSEGAに対し、wet-field下の摘出とstent留置を行った症例を経験したので報告する。
【症例】症例は39歳男性。出生時より脳室内病変を指摘されており、当院小児科で20歳までフォローされていたが、病変の増大はなくフォロー終了となっていた。 30代になり、頭痛を自覚していたが、20XX年11月より悪化し、近医受診。頭部精査にて脳室内腫瘍と脳室拡大を認め、同年12月18日当科紹介となる。急性水頭症の所見はなく、予定手術で腫瘍摘出術を行う方針とした。 20XX+1年1月6日 入院、翌日手術を施行。緩徐増大の病変であり、基底核に付着する被膜の摘出は行わず、側脳室内の造影病変の摘出と髄液路の確保を目的として手術を施行。 被膜は開放されたが、癒着による髄液路の閉塞が懸念されたため、中脳水道までのステント留置を行い、手術を終了した。病理組織診断ではSEGAであった。術後頭痛は改善され、現在外来フォロー中である。
【考察・結論】孤発性SEGAは非常に稀であり、発症年齢を考慮するとcentral neurocytomaも鑑別に挙がる。 どちらの腫瘍も一般的には手術による全摘出により根治が得られるが、基底核の病変の摘出にはリスクを伴う。 今回病変が小児期よりあり、非常に緩徐進行であると考えたため、被膜の全摘を行わず、造影病変の摘出とstent留置を選択した。 文献上、孤発性SEGAのcase seriesはなく、結節性硬化症のSEGAに対する報告では、若年者の部分摘出例において残存病変の増大による再手術を要している。 しかし、いずれも10歳未満の結節性硬化症の症例であり、本例に当てはまるかは検討を要する。今後のフォローアップは必要であるが、合併症を抑え、病変をコントロールする目的での本手術は有効であったと考えられる。

3. 鍵穴開頭顕微鏡手術支援下に行った頭蓋咽頭腫に対する拡大内視鏡手術
Keyhole microsurgery-assisted extended endoscopic transsphenoidal surgery for craniopharyngioma

 福井大学医学部附属病院 脳脊髄神経外科 山内貴寛、大岩美都妃、川尻智士、有島英孝、菊田健一郎

【背景】近年頭蓋咽頭腫に対しては内視鏡単独での摘出術が行われるようになり、良好な成績も報告されている一方で、ワーキングスペースや手術道具の制限、術者の技量といった問題がある。 今回我々はretrochiasmatic typeの頭蓋咽頭腫に対して鍵穴開頭顕微鏡手術支援下で内視鏡による摘出を行った1例を報告する。
【症例】1年半前より生理不順を訴えていた33歳女性。2週間前より頭痛が増強するため来院した。画像精査にて鞍上部腫瘍と脳室拡大を認めた。 入院後に意識障害を来したために脳室ドレーンが留置された。画像および内分泌的検索を行ったのち摘出術が計画された。
【手術】右眼窩上鍵穴開頭による顕微鏡支援下に内視鏡的摘出術が行われた。手術は顕微鏡、内視鏡が同時に開始され、まず顕微鏡術者が鞍上部に到達し、前頭蓋底のくも膜を視神経や動脈から剥離した。 その後、内視鏡側から前方拡大の鞍底開窓が施行された。前頭蓋底の構造は顕微鏡側から上方にリトラクトされ、前頭蓋底およびトルコ鞍の開窓および硬膜切開は両側から視認しつつ安全になされた。 下垂体茎は鍵穴術者側から切断し、腫瘍は視神経と下垂体の間のspaceから内視鏡により摘出した。 腫瘍は周囲組織との明らかな癒着はなかったが、動脈損傷のリスクもあるため脳幹前面に接していた部分に付着していた残存腫瘍の無理な摘出は行わなかった。 頭蓋底再建のため顕微鏡側から大きなfat plaqueを挿入し、手術を終了した。
【結論】内視鏡による頭蓋咽頭腫摘出術において、鍵穴開頭顕微鏡支援は頭蓋底開窓時の前頭葉底面組織の損傷回避や、脳を上方にリトラクトすることで、わずかであるが内視鏡側から腫瘍摘出のためのワーキングスペースを広げられる点において有益かもしれない。

4. 経鼻手術におけるDuragen使用経験

 名古屋第二赤十字病院脳神経外科神経内視鏡センター 岸田悠吾

5. Combined endoscopic suprarobital keyhole and extended endonasal approachで摘出術を施行した再発clival chordomaの一例

 名古屋市立大学 谷川 元紀

「緊急帰国!特別症例報告」

Endoscopic microvascular decompressionを施行した舌咽神経痛の一例
 藤田医科大学ばんたね病院 小松文成、加藤庸子
症例は58歳男性。2年前から左舌咽神経痛の診断にて薬物治療されたが、症状増悪のため手術目的に紹介となる。3T MRIにて左舌咽神経を圧迫するPICAとjugular type のrhomboid lipを認めた。 画像、手術を供覧し、舌咽神経痛への内視鏡手術の有効性とrhomboid lipの解剖学的バリエーションについて考察する。

嚢胞性病変に対するEndoscopic cyst-ventricle fenestrationにおける工夫
 藤田医科大学ばんたね病院 脳神経外科 小松文成、加藤庸子
症例は42歳女性。頭痛、嘔吐、小脳失調症状にて発症し、MRIにて左小脳半球に造影効果を伴わない嚢胞性病変 (Glioependymal cyst) を認め、第四脳室を圧排変形していた。 手術は硬性脳室鏡による開窓術を施行した。第四脳室に接する嚢胞の再薄部を同定し、開窓を行い嚢胞腔と第四脳室を交通させた。手術中に最薄部を同定する簡便な方法を紹介する。

「特別講演」「脊椎内視鏡手術の未来構想」

 市立御前崎総合病院 脊椎センター 北浜義博先生
 浜松医科大学 光医工学大学院
 静岡大学 工学部大学院 正視覚力推進研究所 北浜 義博

 脊椎手術が世界で本格的に始まり報告されたのは1938年のLOVE法による腰椎椎間板ヘルニアの摘出である。 その後、光学機器の発展に伴う術式の低侵襲化が進み、顕微鏡の導入を経て、脊椎内視鏡手術が日本に導入されたのは2002年である。 これから、脊椎手術はどこへ向かうのか?胸腹部の外科と同じくロボット化されるのか?神経内視鏡の発展につながるのか? 現在、われわれが取り組む脊椎手術の数値化、視覚化の研究の成果をもとに、脊椎内視鏡手術、神経内視鏡手術の未来についての見解を述べる。
 画像情報に関連する研究の成果は、診断、シミュレーション、ナビゲーション、術後評価に活用が期待される。 3T MRIを活用した診断能力の向上、各種ワークステーションを活用した3D画像による内視鏡画面の再現、3Dプリンターを用いた術前シミュレーション、有限要素法を用いた神経根除圧の評価について紹介する。  脊椎手術の低侵襲化に骨研削能力の向上は欠かせない。ダイヤモンドバーを用いた骨研削の数値化にわれわれは取り組んでいる。バー先端の圧変化を3軸動力計や非接触型温度計で測定した。
皮質と髄質の組織特性、手動と自動、水の有無による研削データの違いを紹介する。
 脊椎内視鏡手術の長所と短所を踏まえ、われわれが目指す脊椎手術のロボット化はどうあるべきか? 治験を踏まえ、開発に欠かせない環境整備として今できることは何か?若手術者育成とロボット開発は両立するか? 日本で脊椎手術ロボットの開発、上市は可能か?新型コロナウイルス感染症流行後の日本でいかに研究開発を進めるべきか? 様々な答えのない問いを抱きながらも、日々、研究開発に勤しむわれわれの思いを伝え、今こそ医師の器械開発への積極的な参加が求められていることを本講演を通して呼びかけたい。 2038年に脊椎手術は100周年を迎える。ものづくりに根ざした器械開発により、脊椎手術と神経内視鏡手術の革新を、われわれはぜひ中部日本から世界へ届けたい。

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